原料費調整制度の解説

都市ガス事業者の多くは、原料費調整制度を採用しています。

原料費調整制度とは、原料の輸入価格に応じてガスの単価を調整する制度です。

簡単に言うと「原料費が安い時には、料金も安くなる。原料費が高い時には、料金も高くなる。」という仕組みです。

このページでは、原料費調整制度について解説しますが、国内の都市ガス会社すべてが採用しているのではありません。

原料費調整制度の概要

原料調整制度の仕組み
資源エネルギー庁HPより

日本で利用されている都市ガスは、ほとんどが海外から輸入されたものを原料としています。

大規模な都市ガス事業者は、自社で基地を保有し直接輸入しています。自社で輸入していない事業者も、輸入している事業者から仕入れていますので、結果的に輸入されたガスが使用されています。

海外から原料を輸入する際、「為替レート」と「原料費」によって購入価格が大きく変動する可能性があります。

為替レート
為替レートとは、「円とドル」など、円と異なる通貨が売買される際の交換比率のことです。
「円が強い状態・円高になっている際には、輸入価格は安い」、「円安になっている際には輸入価格が高い」ことになるのです。
為替レートは毎日変動しており、輸出入する事業者は為替の影響を大きく受けています。

また日本国内で一般的に「都市ガス」と呼ばれているガスは、LNG(液化天然ガス)を主成分としており、そのほかにもLPG(液化石油ガス、プロパンガスのこと)などが含まれています。

都市ガスにはプロパンガスが含まれている
余談ですが、皆さんが普段使用している都市ガスには、プロパンガスも一部含まれています。
LNGだけでは、カロリー(熱量)が低いため、LPガスを使用して熱量を上げて火力を強くしているのです。

日本では、LNGとLPGどちらもほとんどを輸入に頼っています

仕入れ価格が変動するリスクを秘めている
海外からものを輸入する場合、為替レートや輸出国の社会情勢の影響を受けるため、購入価格が大きく変動しやすいというリスクがあります。日本国内で生産しているものとは、仕入れ値の点で大きく異なるのです。

都市ガスを輸入している事業者は、仕入れ価格が大きく変動するリスクを常に抱えています。このようなリスクを軽減するために、原料費調整制度が設けられています。

原料費調整されるのは単位料金

原料調整制度の調整期間
資源エネルギー庁HPより

原料費調整制度に影響があるのが、ガス料金のうち「単位料金」の部分です。

過去3ヶ月の仕入れ値に基づき調整される
経済産業省・資源エネルギー庁のホームページには、「原料の貿易統計価格の3ヶ月平均値に基づき、原則として料金を毎月調整します。」と記載があります。

さらにその変動分についての反映は、「算定期間の最終月から3か月後の検針分に反映する」とされています。

一般的な原料費調整の仕組み
例えば「1月から3月までの原料の平均価格」は、「6月分のガス料金」に原料費調整額として反映されることになるのです。
参照:東邦ガス・原料費調整制度による料金の調整

このような形で輸入価格に連動して変動するのは、単位料金です。単位料金は毎月調整によって変動しますが、基本料金が毎月変動することはありません。

基準単価をもとにして変動する
各ガス会社では、プラスマイナスの調整をする前の「基準単位料金」が定められています。
この基準単位料金から原料費調整による加算または減算をして、適用される単位料金が算定されているのです。

基準単位料金に関しては、基本的に同額なのですが変更することはできるようになっています。

ただし基準単位料金は、頻繁に変更されるような金額ではありません。

原料費調整額の算定方法

実際に調整額がいくらになるのかを決める算定方法ですが、細かい計算式によって決められています。

一般的には、下記のような順に計算して調整額を決めています。

原料費調整額の計算方法
  1. LNGとLPGそれぞれの平均原料価格を算定「LNGの平均価格×LNG構成比率」+「LPGの平均価格×LPG構成比率」=平均原料価格
  2. 【平均原料価格と基準平均原料価格の変動額の算定原料価格が上がっている場合】
    平均原料価格-基準平均原料価格=原料価格変動額

    【原料価格が下がっている場合】
    基準平均原料価格-平均原料価格=原料価格変動額
  3. 調整額の算定換算係数×原料価格変動額/100×(1+消費税率)=調整額
  4. 適用する単位料金の算定基準単位料金±調整額=実際に適用される単位料金

上記の計算式のうち「LNGやLPGの平均価格」に関しては、記載した通り3か月の平均値ですので毎回数字が上下します。

また「LNGやLPG構成比率」と「換算係数」についても、各社によってまた地域によっても若干数字が違っています。

調整額の決め方については、全社統一の計算式ではありません。

算定方法については、会社によって上記とは異なる可能性があります。各ガス会社のホームページなどに記載があります。参照:東京ガス・原料費調整制度とは?

なぜ原料費調整制度があるのか

都市ガス料金体系


原料費調整制度が開始されたのは、1996年です。

現状では、国内の都市ガス事業者の多くがこの制度を導入しています。原料費調整の仕組みが都市ガス事業を営むのに適していると判断されているのです。

なぜこの制度があるのか、理由はいくつかあります。

料金を透明化するため

原料費調整額は、為替レートと原料の輸入額に連動するということは上述しました。

為替レートや輸入価格が上下するというのは、ガス会社の力が及ぶ所ではありません。

輸入額が上がったことにより仕入れ値が高くなってしまうことは、ガス会社にとっては仕方がないと言うことができるのです。

企業努力では、どうすることもできないからです。

一方で基本料金や調整の基準となる「基準単位料金」、さらに様々な料金プランの展開などは、ガス会社自身によって決めることができます。

ガス会社が色々と試行錯誤することにより、「お得な料金プランが展開される」。「企業努力によって経費を削減する、業務効率を向上して手間を省くなどして、既存の基本料金や基準単位料金を下げる」というのは、その企業次第です。

料金を区分する
「企業努力により決定できる料金」と「海外から輸入しているものなので、努力が及ばない料金」を分けることにより、都市ガスの料金体系をわかりやすくしているのです。
多くのガス会社ではHP上で仕入れ値が公開されている

都市ガスをご利用されている方は、契約中のガス会社のホームページや検針票を見ていただくと、適用されている基本料金や単位料金、さらに原料費調整額がいくらであるのかが、明確に記載されているかと思います。

料金の透明化
「今月は、先月よりもガス代が高かったけど、理由は何だろうか?」と疑問に感じた際に、明細を見れば
  • 「ガスの使用量が多かったのか」
  • 「使用量は同じだけど、原料の輸入価格が上がったからなのか」
  • 「基本料金が少し上がったのか」
というように、何が原因なのかということを皆さんが判断できるようになっています。

「原料費が上がったのは、不可抗力だから仕方がないね」「基本料金が上がったのは、何か理由があるんだろうか」と考えることができます。原料費調整制度があることで、消費者にとって料金体系がわかりやすくなっています。

このようにガス料金を分類することにより、料金の透明化がなされていると考えられます。

事業者の保護

原料費調整制度があるもう一つの大きな理由として、ガス事業者の保護、経営を安定させる目的が挙げられます。

仮にこの制度がなかったとしたら、ガス料金(基本料金と単位料金)は毎月同じ金額になります。

もしも原料費調整がなかったら
仕入れ値が大きく変動するかもしれないのに、「消費者に供給するガス料金は一定」というのは、ガス会社と消費者双方にとってリスクがあります。
輸入価格が安いときは
輸入価格が安い時期は、「仕入れ値は安いけど消費者への小売料金はそのまま」なので、ガス会社にとって何の問題もありません。
消費者としては、「本来であればもっと安く使用できる所が一定の金額」なので、間接的に損をしていると考えられます。
輸入価格が高いときは
逆に輸入額が大きく高騰した場合、消費者にとっては問題ありませんが、ガス会社としては赤字になってしまうリスクがあります。
高騰の度合いなどにもよりますが、場合によっては倒産してしまう危険性もあるでしょう。
公共サービスである都市ガス会社が倒産してしまったら、多くの消費者の生活が成り立たなくなってしまいます。

原料費調整制度は、輸入額が高騰した場合にも臨機応変に対応できるよう、ガス会社の経営を守るために設定されている制度と考えられます。

消費者も保護されている

これは、同時に消費者の保護になっていると捉えることもできます。

もしも原料費調整制度がなかったら、ガス会社としては輸入額が高騰するリスクに備えて料金をあらかじめ高く設定せざるを得ないでしょう。

これは、経営の安定を図るという意味では当然のことです。

仕入れ値に関わらずガス料金は一定
消費者としては、仕入れ値が下がったとしてもガス料金は一定です。本来であればもっと安くガスを使えるにも関わらず、それが反映されないのです。
また上述したように、都市ガス会社の経営を安定させるというのは、間接的に利用者の生活を安定させていることにも繋がっています。

原料費調整制度は、事業者と消費者双方を守るためにつくられた制度と捉えることができるでしょう。

原料費調整額の上限と下限

実際に原料調整される金額ですが、例外を除いて上限や下限は設けられていません。

原料費が高騰したら、連動して調整額も際限なく上がります。下がった場合に関しても同様です。

ただし、ガス会社が自主的に上限を設けている可能性はあります。

上限を設定しているガス会社と契約しれいれば、上限を超えた金額分はガス会社が負担してくれます。消費者としては安心ですが、実施している企業はほとんどありません。

都市ガス料金は自由料金制へ移行している

都市ガスはかつて規制料金だった
かつて都市ガスの料金は「規制料金」で、その名の通り行政の規制を受けた料金体系でした。料金プランを新設や変更する際、行政に届け出をして認可を取らなければならなかったのです。
これは都市ガスが公共サービスであるからで、消費者にとって不利になるような料金設定をしていないかチェックが入っていたのです。

現在では、小売事業が自由化されたことがあり、「会社間による競争が行われている」と判断された地域に関しては、規制料金は撤廃され自由料金に移行しています。

多くのエリアで自由料金制となっており、規制料金の地域はほとんど残っていません。

「自由料金」の地域に関しては、調整額の上限や下限についての設定義務はありません。

つまり、上限を設定するかどうかはその会社次第となるのです。上述しましたが、現状では上限を設定している企業は、ほとんどありません。

規制料金のエリアだったら
数は少ないですが「規制料金」の区域であった場合には、調整額の上限値が定められています。経済産業省により「基準時点の金額に対してプラス60%」が上限値と決められているのです。
これは、急激に燃料費が高騰した際に需要家への影響を和らげるために設定されたものです。
ガス会社としては、60%以上の原料調整をしてはいけません。この場合、上限を超えた分の金額に関しては、ガス会社が負担することになります。

新都市ガスの原料費調整制度

このウェブサイトでは、一般ガス導管事業者から新都市ガス事業者へ切り替えることをおすすめしています。

現状で多くのガス会社に採用されている原料費調整制度ですが、新都市ガス事業者へ変更した場合には、各社によって原料調整の対応が分かれています。

新都市ガス会社の原料費調整
東京ガスや大阪ガス、東邦ガスや西部ガスなどの「一般ガス導管事業者と同額」の原料調整を行っている事業者も多いですが、一部ではその会社独自の計算で決定しているケースもあります。

東京ガスや大阪ガスなど大手都市ガス会社の調整額というのは、算定期間3か月が過ぎた後の2か月間に貿易統計値として公表されています。

導管事業者と調整額を合わせている新都市ガス事業者は、公開されたものと同じ金額を調整します。

独自の計算で調整額を算出しているのは企業規模の大きい事業者に限られていますが、各社のホームページ上に計算式が掲載されています。

原料費調整額が大きく変わることはない
基本的な考え方としては、LNGやLPGを輸入するルートは限られていますので、原料の仕入れ価格が会社によって大きく異なる可能性は低いでしょう。
また計算式も同様で、各社同じような構成比率により算出されています。

会社によって大きな差がでる可能性は低いですが、気になる方はお申し込み前にご確認ください。調整額の上限や下限についても同様に、その会社の自由です。

原料費調整していない都市ガス会社

日本国内の都市ガス会社(一般ガス導管事業者)は、民間と公営併せておよそ200者ほどあります。この中のすべてが原料費調整制度を採用しているのではありません。

日本国内には、「ガス田」がいくつか存在しており、都市ガスの原料となる天然ガスが産出されています。

日本国内で採取される天然ガス
代表的なものとしては、「南関東ガス田」があり関東一円に広がるほどの面積を持ちます。ただし環境の問題から、実際に採掘されているのは千葉県のみとなっています。
また南長岡ガス田をはじめとして新潟県にもガス田が複数あります。その他、北海道などでもガス田があり、これらの地では国内産の天然ガスが採掘されているのです。
原料費調整していない都市ガス
国内で産出された天然ガスを使用している都市ガス事業者は、公営ガスも含めていくつか存在しています。これらの中には、原料費調整制度を導入していない事業者があります。

少なくともLNGに関しては、輸入していないので仕入れ値が安定している、つまり調整をする必要がないのです。

国内から原料を調達する利点は、仕入れ値が安定していることだけではありません。輸送費などのコストがかからないため純粋にガス料金が安いというメリットがあります。

実際に千葉県内など一部の市町村では、とても安い料金で都市ガスが供給されています。参照(外部サイト):【千葉県版】都市ガスとプロパンガスどちらが安いのか?

原料費調整制度の成り立ち

原料費調整制度の仕組みは、1996年から始まっています。

当初は、「算定期間の最終月から4か月後のガス料金に反映される」仕組みになっていました。

例えば「1月から3月までの原料価格の平均価格」は、「7月分のガス料金」に調整額として反映されていたのです。

「原料価格の変動をより迅速にガス料金に反映させる」ため、現在では期間が1か月短縮され「3か月後」とされています。

またかつては、変動幅が基準額の±5%以内であった場合には、調整が行われない仕組み(非調整バンド)がありましたが、現在では廃止されています。

プロパンガスの原料費調整制度

プロパンガス会社の中にも、都市ガスと同様にこの制度を導入している企業があります。

プロパンガスはすべてが自由な原料費調整
前提としてプロパンガスは公共サービスではなく、行政により料金が規制されていません。
プロパンガス会社が原料費調整制度を採用しているとしたら、その会社独自の判断によるものと認識して良いでしょう。

都市ガスと同じように「3か月の算定期間を定めて基準値を元に変動する」というシステムを採用している企業もありますが、これはその会社独自のものであり、規制されて行っているものではありません。

プロパンガスは、その会社の判断で自由に料金を決めることができるサービスです。
そのため時に法外なガス料金が課されるお宅があるなど、その不透明感が度々問題視されてきました。

不透明なイメージを緩和するため、他社との差別化を図りガス料金をわかりやすくするために原料費調整制度を導入していると考えられます。参照(外部サイト):LPガス料金・原料費調整制度と固定単価の違い

将来的な都市ガス利用について

日本国内で利用されている都市ガスは、その多くが輸入されたものです。

原料費調整制度というものも、原料を輸入していることを前提として定められたものです。

これはある意味では仕方がないことでしょう。日本は資源に乏しい国であるため、輸入しなければ国内で使用するエネルギーを賄うことができないのです。

しかしこのような状況が近年では、見直されています。

世界的な風潮として「脱炭素」、つまり二酸化炭素など地球温暖化を促進する温室効果ガスの排出量の「実質ゼロ」を目指す動きが加速しています。

カーボンニュートラルやカーボンオフセットと呼ばれる考え方です。

それと連動する形で化石燃料への依存度を下げるという取り組みが盛んに進められています。

再生可能エネルギーの取り組み
「化石燃料ではないものから、エネルギーを生み出すことができないか」ということです。
これは再生可能エネルギーと呼ばれるもので、太陽光や風力など自然界から補充されるエネルギーを指しますが、広義ではバイオ燃料など生物が持つエネルギーを利用したものも含まれています。
都市ガスの脱炭素化
都市ガスの場合には、地面を掘削して天然ガスを地中から採取している状態から、バイオガスなど他の方法で生み出すことができないかという取り組みが盛んに行われています。
現在では、植物やゴミ、さらには生物の排泄物など様々なものからガスを生み出すような研究が進められているのです。

将来的に再生可能エネルギーから都市ガスを生み出すことが一般的になれば、原料費調整制度は廃止される可能性もあるでしょう。

これは技術が発達したことで可能になった訳ですが、同時に人々の意識が変わったことも大きく影響しています。

これまでも現在でも、当たり前のように毎日使用できている都市ガスですが、資源には限りがあること、二酸化炭素の排出を抑えなければならないことが世界中の方々の共通認識となりつつあるのです。

加えて、2021年から2022年にかけて日本国内では、大きなエネルギー危機に直面しました。
世界情勢の変化からエネルギーの輸入価格が高騰し、ガス会社だけではなく消費者の皆さんの生活にも大きな影響を与える事態となったのです。

このページをご覧の皆さんも、都市ガスを不自由なく使えるのは当たり前ではない、エネルギーを輸入だけに頼る時代は終わったことをぜひご認識ください。