東京電力ホールディングスは2017年7月より都市ガス事業することを決定し、顧客へ提供する料金プランを発表しました。このプランは、主な競合相手となる東京ガスの一般料金と比較すると8%ほど料金が安くなる見込みとなり、東京電力関連の各社で予約受付が開始されています。
関東圏内に2000万件の顧客を持つ東京電力が都市ガス販売に参入することにより、これまでは関西地域に比べ下火であった関東地域でのガス切り替えが活発になると考えられます。
東京電力の新プランは「とくとくガスプラン」
7月から販売開始するプランは「とくとくガスプラン」という名称で決定しており、5月10日より電話受付が開始されています。
メインターゲットが東京ガスの都市ガスユーザーとなりますが、すべての東京ガスユーザーが安くなるのではなく、「一般プラン」のユーザーの料金を3%安くすることを打ち出しています。
一般料金の顧客を対象としているため、床暖房などを利用している「暖らんぷらん」・エネファームやエコウィルを利用している「発電エコぷらん」・エコジョーズを利用している「湯ったりエコぷらん」など、割引サービスを適用している顧客は安くなりません。
永続的に安くなるのは3%ですが、契約開始後の1年間に限り「スタート割」と称し5%の割引を行うため、最初の1年間は8%お得になることになります。
地域は東京・神奈川のみ
東京電力や関連企業は関東圏内に広く電力を供給していますが、スタート時の提供可能エリアは東京都と神奈川県内に限定しています。同社の発表では提供エリアは順次拡大していく予定です。
更に制約として「東京電力の新電気料金プラン(スタンダード・プレミアム・スマートライフ・夜トク・動力)に契約していること」が付帯されています。つまり電気が東京電力でなければ契約できない且つ新しい電気プラン限定ということになります。
電力は2016年に自由化されていますので、自由化後に東京電力から他社に切り替えている顧客が、「ガスを東京電力にしたい」という場合には、電気を東京電力に戻す必要があります。「都市ガスだけ東京電力と契約することはできません、電気も東京電力にしてください。」ということですね。
地域が東京と神奈川に限定されてしまうのはなぜなのかという疑問が生じますが、東京電力としては都市ガスの供給量を十分に確保する必要があり、「ガスの調達の面で東京ガスと接点がある」という点、「ガスを調達するルートが完全に確保できていない」という点から、上記のような複数の制約を設けて、ひとまず様子見という所だと考えられます。東京電力グループがガスの調達の面で苦心しているのは、都市ガスが自由化された4月からではなく、少し遅れて7月から参入することからも窺うことができるでしょう。
どこまで顧客数を伸ばすことができるのか
東京電力は、2016年に自由化されている電力で東京ガスに70万件以上の顧客を奪われています。今回の都市ガス事業参入にあたり、どこまで巻き返すことができるのかということが重要になります。1年間待って反撃の機会が来たという所でしょう。
しかし、東京電力としては福島第一原子力発電所の事故で巨額な資金を必要としている状況であり、原発事故関連でのイメージダウンなど懸念する材料を複数抱えています。
今回の都市ガス事業での顧客獲得目標件数も4万件としており、奪われた格好の70万件と比較するとかなりの隔たりがあります。
この記事では都市ガスのプランのみを解説していますが、競合となる東京ガスでは電力と都市ガスのセット割を実施しているため、どこまで顧客がお得感を感じるのかは不透明であると言えるでしょう。
電気を他社に切り替えていない顧客、つまり「東京電力の電気と東京ガスの都市ガス」の顧客は切り替える顧客が一定数あると予測されます。しかし、既に電気を切り替えている顧客、例えば「東京ガスの電気と東京ガスの都市ガス」の顧客が、今回の新プランに魅力を感じるかどうかは不透明であります。
東京電力の都市ガス事業参入に関して、プランや条件などを見ると「やや弱気である」と受け取ることもできます。
ただ電力事業最大手の東京電力が都市ガス事業に参入したということで、全国的に電力会社VS都市ガス会社という構図がはじまりました。今まで選択肢が無かった、電気や都市ガスに選択肢が生まれたということは、とても意義のあることだと思います。
東京電力がガス事業でどこまで顧客数を伸ばすのかに注目し、今後更に市場が活性化し顧客にとってより良いサービスが提供されることを期待しましょう。