都市ガス企業2017年4月より都市ガスが自由化されました。
都市ガスは地下を通る導管より供給されるサービスであり、顧客へ供給するためには、その導管を整備する工事を行う必要があります。工事費用は整備する企業が負担するため、企業としては多大な投資が必要になります。
そのような事情から、従来都市ガスでは独占供給が認められ、導管を配備した企業のみが、顧客へ販売することができる状況でした。
自由化されたことにより、導管を配備した企業以外にも、顧客への小売りを行うことが許されることになりました。
この自由化の狙いは、独占状態から複数社が競合する状態にすることにより、顧客としても複数の販売会社の中から選ぶことが可能になるとともに、企業が新しい事業に参入することにより、経済を活性化させることにあります。

自由化の時点で参入する企業は12社

4月現在、都市ガス自由化により新たに参入することを表明した企業は12社となります。
厳密に言うと経済産業省に小売業者として登録を行った企業は3月31日時点で45社あります。ただ、一般家庭への小売りを行い、尚且つ自社独自でオリジナルプランを提供し、顧客対応を行う企業は現時点で12社ということになっています。
この内の多くは電力会社と、既に都市ガスやプロパンガス(LPガス)を販売しているガス会社が占めています。

日本全国で12社ですので、この数は非常に少ないと考えられます。
ちょうど1年前に自由化されている電力では、自由化の時点で登録業者が殺到したことと比較すると、その差は歴然です。
同じライフラインのサービスであるガスと電力ですが、このような差が生じることには、大きく分けて3つの要因が考えられます。

都市ガスと電力の市場規模の違い

電力サービスは日本中のほぼ全世帯、全企業が利用しているのに対して、都市ガスサービスは全世帯の6割ほどの利用にとどまっています。
これは都市ガスの利用には導管の整備が必須であり、整備されていない地域にはプロパンガスが普及していることに起因しています。
市場価格では、電力市場が8兆円なのに対し、都市ガス市場は2.4兆円となり、電力の3割強の市場価格となります。つまり電気よりも都市ガスの方が使っている人が少ないということが大きな原因の一つとなります。

卸し売り価格が高い

都市ガスを輸入し、顧客への小売りまでを一貫して自社で行うと考えた場合、大規模な輸入基地が必要になります。都市ガスの原料である液化天然ガス(LNG)を輸入し、気体にして供給ができる状態にするには、沿岸部に大きな輸入基地を持つ必要があり、この基地を新規参入業者が新たに建設することは様々な面で考えて非常に難しいと考えられます。
従って既に基地を所持しているガス会社から、卸し売りを受けて顧客へ供給することになるのですが、都市ガス業界ではこの卸売市場の整備が進んでいません。
市場の整備は今後進んでいく可能性が高いですが、もう一つ大きなハードルがあります。
欧米諸国と比較すると、日本国内のガスの卸し売り価格は非常に高い水準となっています。
そのため、新規に参入する企業としては、利益の採算が見込みづらいというのが状況です。
ライフラインのサービスを販売することは、企業にとって安定した収益が見込める事業であり、本来であればおいしい事業になり得るはずです。
しかし現状では、利益を見込むことができるかどうか、様子見の企業が多いと考えられます。

卸し売り価格が高騰している要因として、日本は島国であるため、上述した大規模な基地の必要性が考えられます。
卸し元企業としても、大きな投資をして基地を建設し輸入したのだから、できるだけ高く売りたいという考えでしょう。とは言え自社で輸入基地を建設するには莫大な費用が必要であり、相当規模の企業であり、収益の採算が無い限り新たに建設することは難しい状況です。
これは企業間のみでは解決が難しい問題であり、今後政府が介入して卸し売り価格の下落を狙いにいくのかどうか、注目が集まります。

保守管理責任の存在

最後の要因として、ガス機器の保守管理の問題があります。
今回の自由化では、エンドユーザーである顧客が使用しているコンロ、給湯器、ストーブなどの機器の保守管理は小売りを行う企業の負担と定められています。
つまり、ガス漏れなどの事故やトラブルがあった場合には、小売りする企業がお宅に駆け付ける必要があります。
そもそもガス漏れ事故の数は多くはありませんが、顧客としてもなにかあった時に、しっかりと対応できること、というのは当然の条件でしょう。いくらガス代が安くなったとしても、万が一事故があった時に来ることができないというのでは契約できませんね。
新規に参入する企業が、保守管理を自社で行うとすると、新たに営業所を構えるということが必要になりますし、ガス機器に詳しい従業員を配備させる必要があるため、現実的にはかなり厳しいと考えられます。
そのため、現状では多くの参入企業が「既にその地域で都市ガスを供給している企業」と保守関連の業務を委託しています。
例えば東京ガスユーザーのお宅がニチガスの都市ガスに乗り換えたとしても、ニチガスは東京ガスに保守管理の委託をしていますので、事故があった時に駆け付けるのは、今まで通り東京ガスのスタッフということになります。

このように保守責任を負うということは、ガス特有のものであり、電力では通常無いものとなりますので、新規参入を阻んでいるハードルの一つと考えることができます。

上述したように、都市ガス事業に参入するためには、企業にとっていくつかの問題があり、それにより参入する企業が少ないという現状となっています。
とは言え、都市ガスはライフラインのサービスであり、顧客を取り込むことができれば、企業にとっては大きなメリットがあります。現在様子を見ている大手企業も多いと考えられますし、政府が何らかの対策を実施することも予想されています。
今後、参入する企業がどう推移するのかに注目が集まります。